植木投げの法
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ある日の香霖堂:青紫の寝息


 と言うわけで、リクエストの報われる紫、…です。
 多分、報われてると思います。
 えぇ、多分です。
 大事なことなので三回目まで言いますが、多分です。
 四回目は無いです。
 一人称なので誰だか分かりにくいかもしれませんが、ご容赦を。


『ある日の香霖堂:青紫の寝息』





 ドアノブに手を掛けて、また手を戻す。
 しばらくかけて落ち着いてから、またドアノブに手を伸ばし、また戻す。
 私はそれをもう、十度ほど繰り返していた。
 ドアノブに伸ばしていない手には、手土産が二人分。
 当然、彼と私の分だ。
 準備は万端。
 後はこのドアを開けるだけだ。
 だというのに

「はぁ…」

 私は店内と店外の境界を越えられないでいた。
 ため息だってでる。
 この私が、境界を操る私が、その程度も出来ないだなんて。
 私がどうやって店内に入ったところで、彼が邪険にするのは分かってる。
 でも、店に入った私を笑顔で迎えてくれる可能性だって…

「…無いわね」

 自分で考えておいて鳥肌が立ってしまった。
 あの店主が満面の笑みだなんて、絶対に想像できない。
 またドアノブに手を掛ける。
 反射的に下ろそうとする自分の手を制して、ゆっくりと握りこむ。
 普段なら簡単に回るドアノブは、そのときだけは妙に硬くて重かった。
 それでも回して、押した。
 音も立てずに開いたドアの先に居たのは

「…えぇ?」

 熟睡している霖之助だった。
 あまりにも無用心だった。
 鍵がかかっているわけでもなかったドアに、誰かが進入してきても起きない店主。
 他に誰かいる気配も無い。
 店の中で罠を仕掛けるわけも無い。
 一応警戒して、浮遊で近寄ってみたけど、何も無いまま霖之助の所まで辿り着いてしまった。
 規則正しい寝息を立てている霖之助。
 ためしに頬を引っ張ってみたり眼鏡を外したりしたものの、反応一つ無い。
 しばらく弄って遊んだところで、ふと気付いた。
 こんなに無防備な霖之助を見るのは初めてじゃないか、と。
 そして、こんな機会はもう二度と訪れないのではないか、とも。
 思い立ったが吉日、と言う言葉がある。
 私はそれに従うことにした。
 椅子を音を立てないように動かして、霖之助の正面に座れるようにする。
 座れば、勘定台に伏せている霖之助の寝顔が少し見易くなった。
 眼鏡を外した霖之助の表情は柔らかく、肌の白さも相まって、似合わない儚さまで醸し出していた。
 手を伸ばして、頬に触れる。
 身じろぎした霖之助に少し驚いたけど、構わずに撫でた。
 しばらくそうしているうちに、だんだんと眠くなってきた。
 等間隔の寝息が、私を睡眠へ誘っている。
 最後に私は霖之助の額と頬に口づけをして、霖之助の横に、霖之助のように伏せて眠りに落ちた。






 浅い眠りの中で最初に聞こえたのは、聞き覚えのある声の寝息だった。
 意識を無理矢理まどろみからすくい出して、脇を見る。
 そこに居たのは、いけ好かないスキマ妖怪だった。
 驚きで声も出なかったが、よく見れば紫も、先程までの僕のように眠っている。
 安心して視線をずらすと、開きっ放しの扉が目に映った。
 もう一度紫を見る。
 …どうやら彼女は珍しく、ドアから入ってきたようだ。
 音を立てないようにゆっくりと伸びをして、立ち上がる。
 開けっ放しの扉を閉めて振り返ると、未だ寝ている紫の背が見えた。
 店内はレティによる冷房が効いていて涼しい。
 寝るのにはあまり適さない温度だ。
 僕はほんの気紛れで上着を脱ぎ、紫に被せた。
 ん、と小さく呻いた紫に驚いたが、宥めるように撫でて、また勘定台に座る。

「恩を売るのも悪くない」

 その呟きは、どこと無く言い訳がましく聞こえた。
 慌てて辺り見回したが、人影は見えない。
 窓の外にあるのは、夕日を飲み込もうとする宵闇だけだった。
 誰にも聞かれていないことに安堵して、僕はまだ読みかけだった本を取り出した。
 能天気な紫の寝息を聞きながら、ハラハラとページを捲っていく。
 それは存外に心地よかった。

 時間は早く進む。
 僕は彼女が起きないことを願うのだった。



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